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第四話 ⑦

Auteur: 上守葉
last update Dernière mise à jour: 2026-01-05 19:00:32

「……っハァ」

 震える息を吐き出すと、普段なら温度差で頬にぬるく絡む白い息が薄く、ほんの一瞬だけ浮いて、すぐに消える。

 老婆の血液の鉄臭さと首筋から溢れてくる吐瀉物混じりの汚液の匂いに、吐き気がした。

 寒さのせいではなく、歯の根が合わなくて顎が痛んだ。

 あれは、夜住じゃなかった?

 俺が見たあの溶けた老婆の顔は、幻覚だったのか?

 俺は……俺が、あの老婆を──市民を、殺したのか?

 パチパチと焼ける瓦礫。

 人々のうめき声。

 助けを求める叫び。

 それらが遠くで聞こえるのみになり、俺の周囲は水を打ったように静寂に満ちた。

 刀主であるはずの俺が、守るべき市民を、殺した──その事実が、帝都の喧騒を消し去っていた。

「宗一郎っ! 前を見なさいっ!」

「ハッ」

 乱れ始めた呼吸が、押し戻されるように喉に戻る。

 背中を叩く先生の叱咤は直接俺に触れていなくても止まっていた呼気を取り戻させ、滲んだ視界を明瞭にする。

 途端、新たな悲鳴が上がった。

 倒れ伏した老婆の肉体。

 俺が切断した首の断面から、黒いモヤが立ち上り始めていたのだ。

 切断面から流れ落ちていた血液は徐々に黒へと変化していき、地面に染み込むはずだった液体は煤として風に泳ぎ始める。

『ひひっ! ひひっ、ひひぁあぁひひひっ!!』

 首が、笑った。

 肉体も肺もないのにゴロゴロとその場で転がり始めた首は、肉体の方と同じように黒いモヤを吐き出し始める。

 笑い声は痰が絡んだようにゼロゼロと気味悪く、転がる拍子に抜けた毛が小石に絡んで土に残った。

 その姿にゾッとして、刀を握る手にぬるっとした汗が滲む。

 こんなものは──こんな存在は、今まで見たことがなかった。

 夜住に変化していく存在は、何度だって見たことがある。

 けれど、そういう者は死を間際にしているからか、悪あがきはしてもこんな風に楽しげに自傷しながら転が
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