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第四話 ⑦

Penulis: 上守葉
last update Tanggal publikasi: 2026-01-05 19:00:32

「……っハァ」

 震える息を吐き出すと、普段なら温度差で頬にぬるく絡む白い息が薄く、ほんの一瞬だけ浮いて、すぐに消える。

 老婆の血液の鉄臭さと首筋から溢れてくる吐瀉物混じりの汚液の匂いに、吐き気がした。

 寒さのせいではなく、歯の根が合わなくて顎が痛んだ。

 あれは、夜住じゃなかった?

 俺が見たあの溶けた老婆の顔は、幻覚だったのか?

 俺は……俺が、あの老婆を──市民を、殺したのか?

 パチパチと焼ける瓦礫。

 人々のうめき声。

 助けを求める叫び。

 それらが遠くで聞こえるのみになり、俺の周囲は水を打ったように静寂に満ちた。

 刀主であるはずの俺が、守るべき市民を、殺した──その事実が、帝都の喧騒を消し去っていた。

「宗一郎っ! 前を見なさいっ!」

「ハッ」

 乱れ始めた呼吸が、押し戻されるように喉に戻る。

 背中を叩く先生の叱
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  • 灯火の番   第十五話 ③

    「普段僕たちが相手にしているのは夜住でしょ。でもここに落ちてくる人間の数は減るどころか、増えてるんだよね」「それは……誰かが……?」「そー。何かが故意に殺して、もしかしたら夜住にしてるのかもしれないね」 絶句して、神風さんが口元に手を当てる。 しかしその目は死体の幻影から外されることはなく、徐々に広くなっていくように感じる地下室の全てを見つめているようだった。 オロチに関わる死者と、先生は言っただろうか。 つまりここに居る死者たちは──オロチと関わった霧子さんが殺した可能性もあるって、ことなのか? 優しくて頼もしかった霧子さんの姿が、先生の語る霧子さんと重ならない。 先生は「自分に信用がなかった」と言っていたが、神風の封庫であの霧子さんを見ていなかったら、俺も先生の言葉を真っ直ぐに受け止められたかどうか。 最年長の刀主として俺達を見守ってくれていた霧子さんを、疑えた、だろうか。「……ま、信じなくてもそこはしょうがないよ。いきなり言われてびっくりしてるだろうし」「……え」「もうちょっと行った所に神守の封庫があるから、そっちも見よっか。入るのは面倒だけど、君たちなら大丈夫だと思うよ」「せ、んせい」「……どっちを信じても、僕は君たちの意見を尊重するよ」 まるで心を読んだような先生の言葉に、俺は咄嗟に言葉が出てこなかった。 しくじった、と思っても、もう遅い。 違うんだと、貴方を疑ったわけじゃないと言いたくても、言葉が出てこなければ無意味だった。 せめて俺は、俺だけは、先生の言葉を即座に受け入れなければいけなかったのだ。 先生は、慰めて欲しいなんて決して思っていないだろう。 けれど、でも、霧子さんのことで衝撃を受けたのは間違いなく先生も同じだったはず。 先生は、斬られた当事者だ。 その事実を周囲に聞き入れてもらえなかった

  • 灯火の番   第十五話 ②

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     俺と神風さんが床に降り立った時、勝手に戸が閉まっていく音がした。  何らかの術力を帯びているのだろう。  神風の封庫を思い出しながら、日向子と先生が角灯の火種を強く燃やすのを見守る。「ここならいいかな。あのね、3人とも」 僕はね、深神は最初から信用してないんだよ。  表に居た時よりも静かに吐き出された先生の言葉に、ゴクリと息を飲む。  ようやく閉じた扉。  俺が2人立てるくらいの高さの地下。  そこに降り立ってやっと、先生はそう言った。「元々八岐之大蛇は、神守、神風、深神の三家が過去に封印したものでね。20年くらい前かな。またアイツが顔を出し始めた時、もう一度その三家の刀主で戦うことになったんだ」 「そ、それが……直紹様のお母様……」 「そうだよ。僕と、直紹のお母さんと、まだ刀主になる前の霧子」 「霧子……さん……?」「でもね。もう少しで倒せるかもって時に、霧子が僕と真江を斬ったんだ。僕たちは、逃げるしか出来なかった」 母様。  神風さんの呟きは、小さな子供のソレのようだった。 神風真江。  確か、先代の神風家の当主であり刀主だった女性だ。  神風さんのご両親はどっちも刀持ちで、どちらも神風さんが幼い頃に亡くなったのだと聞いている。  そのせいで神風さんはかなり若い段階で当主として担ぎ上げられ、年齢に反して当主でいる時間は長いのだと。「な……んで、今までなにも……だって今までずっと……」 「んー、新しい灯守がついたってのもあったし、ある程度睨みを効かせてたってのもあるんだけど」 「そ、そういえば昨日、沙弥さん来てませんでしたね……深神様は、お一人、でした……」 「深神には霧子の他に当主やれるのが結構お年のばあ様だけだった、ってのがひとつ。当時の僕に霧子を引き下ろせるだけの信用がなかったってのが、もうひとつ」 先生の手から、ふわりと角灯が浮いて橙の灯りが周囲を照らした。  角灯の光の

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  • 灯火の番   第十四話 ②

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  • 灯火の番   第四話 朱色の印

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     別に先生に反発したいわけじゃない。  勿論、先生が嫌いなわけでもないし、先生の顔がムカついたとかでもない。  ただ、先生が近くに居る、と思っただけでどこかに消えた頭痛だとかイライラだとかがスッと消えたことをまだどうにも受け入れきれないだけだ。  刀主と灯守はそういうもの。  わかっていても、神風さんと日向子を見ていたからか、なかなか思考が切り替わらない。 そんな俺を見てちょっと拗ねた顔をした先生は、俺よりも一回り以上年上とは思えない表情をする。  実際この人、いま何歳なんだろうか。

  • 灯火の番   第四話 ③

     陽が落ちる。 青から朱へ移り変わり紫になり藍色から黒に落ち着いていく時の流れ──それは帝都が「人」から「夜住」へと、その支配権を明け渡す合図だ。 人々は、空が紫色になってくると慌てて商店街を駆け回り、その夜に必要な物を買い込んで家に戻る。 同じ頃、街中の灯楼にも火種が灯る。 白服たちが忙しなく祈りを捧げる中、俺と帳先生は明神の領域へと繰り出した。 帝都の中はいつものように街灯でぼんやりと明るくて、けれど、何かがいつもと違った。 今夜の空気は、おかしい。 いつもなら火種に焼かれ

  • 灯火の番   第四話 ②

     気になることは多かったが、この日の会議はこれで終了となった。 全員が夜住の出没地域に意識が奪われてしまったというのもあるが、何より陽が落ち始めていたからだ。 陽が落ちれば夜住が出る。 それまでに当主及び次期当主は、刀持ちたちに警邏の指示を出して自らも見回りにでなければいけない。 勿論、俺もだ。 稽古は出来なかったが、疲労は稽古の比ではない。「……ひとまず、各家何人かずつ連絡係を作りましょう。ウチに寄越してくれれば、こちらからも送ります」「わかったわ。明日には刀持ちを送るわね。よろしくね、沙弥」「かしこまりました、霧子様」「日向子。選出を頼んでもいいかな」「お

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